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満員電車に乗る機会は滅多にないのだが、研修開始時間が早い時は、通勤ラッシュの時間帯に乗ることになる。 私の至近距離に大学生風の男の子が立ち、大音量の音楽をイヤホンで聴いていた。 当然のことながら、彼のイヤホンからシャカシャカ音が周囲数メートルに響き渡る。 更に彼はギューギュー詰めにもかかわらず、音楽に合わせて体を小刻みに揺らしてリズムを取る。 私はこのシャカシャカ音は全く気にならない。 車内アンケートによると、イライラする音のNo.1に挙げられていたが、私は全然そうは思わない。 好き勝手に音楽を楽しめばいいではないか。 しかし私のすぐ隣に立っていた50代と思しきオッサンは、そうではなかったようだ。 朝から脂ギッシュな肌をし、今にも飛び出そうな目玉をひん剥いて、老眼鏡越しにその大学生に思いっきりメンチを切っている。 オッサンのイライラが、隣の私にもビンビン伝わってきた。しかも一人でエキサイト気味なのか、はたまた威嚇しているつもりなのか、口を半開きにしておる。そして口が臭い。 私は大学生よりもこのオッサンに‘頼むから口を閉めろ。密集している空間で悪臭を放つな’とイライラし始めメンチを切ったが、オッサンは私など眼中に無く、大学生を呪い殺さんばかりの勢いで睨み付けている。 オッサンのストレスがピークを迎えた頃、電車がガクンと大きく揺れた。 この瞬間、大学生がシャカシャカ音を大音量に響かせたままオッサンに激しくぶつかった。 この時ついにオッサンの中で何かがプツンと切れたのだろう、「こらぁぁぁ〜〜ッ!クソガキぃぃぃ〜ッ!その音楽やかましいんじゃぁぁぁ〜〜ッ!!!」と言いながら大学生のイヤホンをブチッと引っ張って千切ったのだ。 私は心の中で‘オッサン!お前の声の方がやかましいんじゃぁぁぁ〜’と突っ込みを入れながら、危険な展開を予想した。そしてちょっぴり期待した。 大学生がオッサンの左目に逆襲パンチを見舞うのか、テキーラを入れた灰皿でシバクのか、裸で土下座させて写メを撮るのか・・・・。 しかし、大学生は違った。 オッサンのあまりの激しさに気圧されたのか、はたまたオッサンの口の臭さに脳神経が麻痺したのか、一瞬でビビリまくりの表情を浮かべ、目をオロオロと泳がせ、「す、す、すいません・・・」と消え入りそうな声で謝った。 彼が謝った直後に駅に着き、異常な人口密度の電車内から大量の人間が揉みくちゃにされながら押し出されてきたので、二人のその後の展開は分からない。人ごみの渦の中に掻き消されてしまった。 しかし、人がキレル瞬間を垣間見た‘学びの宝庫’の電車内だった。 朝からイライラしたら身体に悪いでっせ、オッサンたちよ・・・・。 朝からニコニコしてええ仕事で一日を過ごそうぞよ、オッサンたちよ・・・・。 ありがとうございます、感謝。耳元でクチャクチャとガムを噛まれると殺意を覚えるが、耳元のシャカシャカ音は意に介さない自らの感覚。 ありがとうございます、感謝。人の感覚は十人十色だと学べる満員電車に乗った機会。 ありがとうございます、感謝。オッサンの姿を反面教師として学べる車両に乗ったタイミング。 |
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